※この記事は2022年前半時点の内容です。2023年10月改定時の変更内容は下記記事をご覧ください。
先日NARやJRAなどから発表された3歳ダート路線改革は突然の発表に驚かれた方も多いと思います。また、帝王賞の開催も近づき、今年もG1昇格するかどうか話がちらほらと聞こえてきます。
そこで今回はG1昇格など格付けルールがどのように決まっているのかアジアパターン委員会のグランドルールを読んでみましょう。以前、同様の内容を書いた方がおりますがルール変更されている部分を中心に書いてみます。
最新版の確認
アジアパターン委員会グランドルールはニュージーランドサラブレッドレーシング(NZTR)が公開しています。
また、NZTRではニュージーランド競馬の年次レポートなど様々な資料が公開されています。ニュージーランド国内のパターンレースの格付けについても記載があるため、興味がある方は読んでみるのもいいでしょう。
用語・略語の説明
文中に聞きなれない用語や略語が多く表現されているため最初に記載してみましょう。
用語
ブルーブック:世界各国の格付けレース等をまとめた本の通称
パターンレース:G1~G3などグレード/グループが付くレース
年間レースレーティング:1~4着馬の各最高レーティングの平均値
パターンレースレーティング:過去3年の年間レースレーティングの平均値
略語
ARF:Asian Racing Conference(アジア競馬連盟)
IRPAC:International grading and Race Planning Advisory Committee(国際格付番組企画諮問委員会)
APC:Asian Pattern Committee(アジアパターン委員会)
IFHA:International Federation of Horse Racing Authorities(国際競馬統括機関連盟)
WBRR:World’s Best Racehorse Rankings(ワールドベストレースホースランキング)
WBRREC:World’s Best Racehorse Rankings Executive Committee(ワールドベストレースホースランキング執行委員会)
ARFHC:ARF Handicappers Committee(アジア競馬連盟ハンデキャッパー委員会)
アジアパターン委員会とは
アジア競馬連盟の加盟国のGレースやリステッドの格付けを管理する委員会になります。
対象国・地域
- ARF加盟国
アジアと書いてありますが、オセアニアや南アフリカなども含まれます。
Gレース数の構成
APCは次のように構成します。
- G1レース数<G2レース数
- G2レース数<G3レース数
- G1レース数+G2レース数<G3レース数
ただし、対象が書いていないので、ARF全体に対してなのか各国競馬団体に対してなのかがよくわかりません。
委員会の構成
パート1国のG1レースを開催する国が委員会に加われます。以前はシンガポールも委員会に加わっていましたが、現在は委員会から外れています。
準委員
次の両方の条件を満たした国が準委員の扱いになります。
- 委員会以外のARF加盟国
- 国際的なGレースを開催する国
準委員の国は、議長の同意を得た場合、APCの会議に代表として出席することができます。ただし投票権はありません。
事務局
次の2カ国の競馬団体が担当します。
使用可能なレーティング
- ワールドベストレースホースランキング(WBRRECが毎年作成)
- 南半球シーズン終了時の場合、ARFHCが作成したレーティングも使用可能
アジアパターン委員会グランドルール
以下、断りが無い場合は全てアジアパターン委員会内の国際Gレースの説明になります。
1.一般規則
Gレースは全て満たすことが条件になります。
- 生産国や地域などの条件が無いこと
日本ならひまわり賞の九州産馬限定などといった条件がアウトになります。 - レース名に固有名称が含まれていること
例えばジャパンカップは近年「ロンジン賞ジャパンカップ」として施行されるケースが多いですが、「ジャパンカップ」の部分が固有名称に当たります。 - 格付けの決め方は主に次の3パターンで決められます。
- パターンレースレーティング
- 年間レースレーティング
- 出走馬の質
- 3の用語や算出方法の説明になります。
レーティング基準表
レースの種類 | G1 | G2 | G3 | L |
---|---|---|---|---|
2歳牝馬 | 106 | 101 | 96 | 91 |
2歳 | 110 | 105 | 100 | 95 |
3歳・4(3)歳以上牝馬限定 | 111 | 106 | 101 | 96 |
3歳・4(3)歳以上 | 115 | 110 | 105 | 100 |
2歳戦は3歳戦・古馬戦と比較して5ポンド低く設定されています。
また、牝馬戦は牡馬混合戦と比較して4ポンド低く設定されています。
2.変更の定義
ルール上、変更と呼ばれるものの一覧です。
後述しますが、変更がある場合はAPCなどの採決が必要になる場合があります。
- パターンレースの格付け変更
- パターンレースの距離、年齢、性別制限、負担重量、開催日、開催競馬場、馬場(芝やダート等)の変更
距離の変更は1600m未満だと100m以上、1600m以上だと200m以上で変更扱いになります。 - パターンレースの固有名称の変更
- パターンレースの新設
- パターンレースの取消
3.パターンレースの変更
1.格付けの担当機関
次のどちらかに該当する場合、APCが決定します。
- G1レース
- 委員会に加盟していない国のレース
上記以外は関連する加盟国の競馬機関が決定、年次総会で委員会に通知します。
日本の場合、日本グレード格付管理委員会が決定します。
2.パターンレースの新設、昇格
- 過去2年間、同等のレース条件、賞金、日程で開催されたレースが対象
- 直近年の年間レースレーティングとパターンレースレーティングの両方が基準値以上
- G1への昇格の場合、APCの過半数の承認が必要。
- パターンレースとして導入する場合、例外を除いて、G3から導入する。
G1レース、G2レースとして導入する場合は委員会の承認が必要。 - 準委員、また準委員希望国がパターンレースを新規導入する場合、委員会の過半数の承認が必要。
委員会の過半数の承認が必要な場合の定義は次のとおりになります。
- 提案国は投票権を持たない。
- 同数の場合は提案を却下する。
例外条件として、APCが全会一致で承認した場合のみ、ルールに一致しなくても承認されます。
3.パターンレースの降格、取消
a.G1レース
- 年間レースレーティングが2年連続で基準値より3ポンドを超えて下回る場合、該当国の競馬機関から警告書が発行される。
- 年間レースレーティングが3年連続で基準値より3ポンドを超えて下回る場合、委員会はレース降格を検討、グレード維持か格下げの投票をする。
- G1からの格下げは委員会の過半数の承認が必要。
b.G2レース
- 年間レースレーティングが2年連続で基準値より3ポンドを超えて下回る場合、該当国の競馬機関から警告書が発行される。
- 年間レースレーティングが3年連続で基準値より3ポンドを超えて下回る場合、委員会はレース降格を検討、グレード維持か格下げの投票をする。
- G2からの格下げは委員会の過半数の承認が必要。
c.G3レース、リステッド
- 年間レースレーティングが2年連続で基準値より3ポンドを超えて下回る場合、該当国の競馬機関から警告書が発行される。
- 年間レースレーティングが3年連続で基準値より3ポンドを超えて下回る場合、自動的に降格される。
- ただし、距離、年齢、性別制限、負担重量、日程など条件の変更が提案された場合は1年猶予あり。
d.自発的な格付けの降格・取消は委員会の年次総会で報告される必要がある。
委員会の過半数の承認が必要な場合の定義は次のとおりになります。
- 対象国は投票権を持たない。
- 同数の場合はレースの降格・取消をしない。
4.G1レース、3歳限定のクラシックレースの降格時の追加検討
G1レースや3歳限定クラシックの降格を検討する場合、以下の内容も考慮可能です。
- 出走馬のうち、レーティングが高い4頭と1~4着馬のレーティング
- 過去18ヶ月以内にG1レースを勝利した馬の頭数
5.各委員が決定する際に考えること
レーティング以外に他のレースやアジア全体の影響を考慮した上で決定するよう書いてあります。
6.変更の定義に関わる修正は次の規定が適用されます。
a.次のいずれかが変更される場合、委員会または各国競馬機関の過半数の承認が必要。
距離、馬場、年齢、性別の制限、負担重量、開催日、競馬場の変更
4.リステッドと国内のグループレース
年次総会で各国のリステッド・グループレースの総数が委員会で報告されます。
5.エイジアローワンスとセックスアローワンスの斤量
エイジアローワンスとセックスアローワンスの標準化を目指しています、といった内容です。今も国によって微妙に違うため改善を狙っているのでしょう。
6.変更の通知と実施
- 翌シーズンの全パターンレースの提案は期限内に事務局へ通知、全委員に回覧されること
期限は2回なので、南半球と北半球のシーズンの終了前だと思われます。 - 変更タイミングが重要な場合、定例会議以外の書面でも可
- G1レースの変更案は委員会の合意が得られるまではメディアに公表してはいけない。
ホープフルSは前年の番組発表当時にG1へ昇格申請中とJRAが発表していましたが、当時のルールに記載されていたのかは気になります。
まとめ
と書いてきましたが、色々なパターンがあるためとても分かりにくいです。日本のレースに対して新設・昇格と降格・取消、条件変更に絞って分けるとこのようになります。
新設・昇格
条件等は次のとおりです。
- 過去2年間、同等のレース条件、賞金、日程で開催される
- 直近年の年間レースレーティングが基準値以上
- パターンレースレーティング(過去3年平均)が基準値以上
- 一部の例外を除いてG3から導入する。
G1レース、G2レースとして導入する場合は委員会の承認が必要。
グレード別に格付けを承認する組織をまとめるとこうなります。
レースの種類 | G1 | G2 | G3 | L | |
---|---|---|---|---|---|
新設 L→昇格 |
G3→G2 | ||||
承認機関 | 日本グレード格付管理委員会 |
昇格基準値
レースの種類 | G1 | G2 | G3 | L |
---|---|---|---|---|
2歳牝馬 | 106 | 101 | 96 | 91 |
2歳 | 110 | 105 | 100 | 95 |
3歳・4(3)歳以上牝馬限定 | 111 | 106 | 101 | 96 |
3歳・4(3)歳以上 | 115 | 110 | 105 | 100 |
例外条件として、APCが全会一致で承認した場合のみ、ルールに一致しなくても承認されます。
降格・取消
降格のプロセスは次の手順になります。
- 年間レースレーティングが2年連続で降格基準値未満の場合、警告が発せられる。
- 年間レースレーティングが3年連続で降格基準値未満の場合、自動降格またはAPCで検討および降格投票を行う(対応はグレードによって異なる)
- G1の場合、上位4頭以外に出走馬のうちレーティングが高い上位4頭も使用可能。
グレード別降格プロセス表
項目 | G1 | G2 | G3 | L |
---|---|---|---|---|
2年連続降格基準未満 | 日本グレード格付管理委員会から警告 | |||
3年連続降格基準未満 | APCで検討 その後、投票で格下げが過半数を超えた場合、降格 |
自動降格 | ||
降格時の猶予など | 検討時、上位4頭以外の他にレーティングが高い4頭を使用することも可能 | なし | 条件変更すれば1年猶予あり 猶予の1年で年間レースレーティングが達しない場合は降格 |
降格基準値
レースの種類 | G1 | G2 | G3 | L |
---|---|---|---|---|
2歳牝馬 | 103 | 98 | 93 | 88 |
2歳 | 107 | 102 | 97 | 92 |
3歳・4(3)歳以上牝馬限定 | 108 | 103 | 98 | 93 |
3歳・4(3)歳以上 | 112 | 107 | 102 | 97 |
降格基準値はレーティング基準値-3の値になります。
基準値未満で判断されるため、例えば古馬G1で年間レースレーティングが112.00の場合はセーフです。
また、「G1の年間レースレーティングが115を下回ると降格する」等と言った内容を見かけることがありますが、昇格用のレーティングと混同して間違っていると思われます。
条件変更
距離、馬場、年齢、性別の制限、負担重量、開催日、競馬場を変更する場合、承認する組織はこうなります。
レースの種類 | G1 | G2 | G3 | L |
---|---|---|---|---|
承認機関 | 日本グレード格付管理委員会 |
おわりに
以上、アジアパターン委員会のグランドルールについての内容を書いてみました。正直英語は自信が無くルールだけを読んでみての内容なので、この部分が足りない、このニュアンスが違っているなどご指摘があればいただけるとありがたいです。
参考資料
更新履歴
- (2024/01/31) 2023年版に関する内容を追記しました。