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帝王賞がG1昇格するために必要な条件

2回に分けてアジアパターン委員会、日本グレード格付管理委員会のルールをそれぞれ紹介してきました。これらのルール上、帝王賞がG1昇格するためにはどのような条件が必要か、また何が難条件なのか見ていきましょう。

日本グレード格付委員会のルール

ルールの紹介記事はこちらになります。

gachach.hatenablog.com

昇格申請

いくら他の条件を満たしていても主催が申請しなければ始まりません。まずは主催者の大井競馬がG1昇格申請することが必要になります。

 

申請期限

G1競走なので8月第3週金曜日までに申請を完了させる必要があります。2022年の場合、8月19日がタイムリミットになります。

 

本賞金額

G1の場合、1着賞金5000万円以上、総額賞金8500万円以上が最低条件です。2022年時点で1着賞金7000万円、総額賞金1億3600万円なので現時点を維持すればクリアできます。

 

レーティング

レーティング条件は2種類あり、直近年の年間レースレーティングとパターンレースレーティング*1の両方をクリアする必要があります。帝王賞の過去2年間の年間レースレーティングは次のとおりになります。

2020年 116.50
2021年 114.50

重賞競走年間レースレーティング一覧(2019年~2021年) ※NARのHPより

つまり2022年は年間レースレーティング115.00以上なら直近年の年間レースレーティングとパターンレースレーティングの両条件を満たせます。

 

その他

以下の理由からAPCの承認が必要になります。

  • G1競走への昇格
  • 現在帝王賞は国外向け格付け表記はLR*2であり、G3以外からグレード格付けを始めるため

 

アジアパターン委員会へ上申

日本グレード格付管理委員会で全会一致の承認を受けた後、アジアパターン委員会へ上申されます。


アジアパターン委員会のルール

ルールの紹介記事はこちらになります。

gachach.hatenablog.com

 

レーティング

条件は日本グレード格付管理委員会と同じです。ここでは省略します。

 

承認について

承認はAPCで投票を行い、過半数を超える賛同が必要です。
日本は提案国なので投票権はありません。
他国の委員は香港、UAE、オーストラリア、ニュージーランド南アフリカの5カ国/地域で3票以上あれば承認されます。

 

課題

レーティング

まず2種類のレーティング条件を満たすことが最低条件です。
直近の年間レースレーティングは2022年の年間レースレーティングを指します。
また、パターンレースレーティングは2020~2022年の年間レースレーティングの平均値になります。
両方とも115.00以上が必要なので今年の出走馬のプレレーティングと過去の勝ち馬レーティングを材料として掘り下げていきましょう。

 

2022年のプレレーティング

プレレーティングはNARのHPから閲覧可能で、今年の値が高い順から並べるとこうなります。

チュウワウィザード 117
テーオーケインズ 117
オメガパフューム 115
クリンチャー 112
オーヴェルニュ 111
スワーヴアラミス 110
メイショウハリオ 109
ノンコノユメ 101
ネオブレイブ レーティング無し

昨年のJPNサラブレッドランキングは年間レースレーティングでは使用されないため、ここでは省略します。

 

過去5年の勝ち馬レーティング

過去5年間の帝王賞勝ち馬がレースで得たレーティングは次のとおりです。こちらもNARのHPから閲覧できます。

2021年 テーオーケインズ 116
2020年 クリソベリル 119
2019年 オメガパフューム 115
2018年 ゴールドドリーム 117
2017年 ケイティブレイブ 116

以上より勝ち馬は最低限でも115はもらえると見ていいでしょう。現在レーティングが低い馬が勝った場合、より有利に働く可能性もあります。

 

どのような結果になれば昇格に近づくか?

レーティング上位4頭の年内最高値の平均値が115以上を超えればいいので、プレレーティング115以上の3頭(チュウワウィザード、テーオーケインズ、オメガパフューム)の3頭は無条件に4着以内に入ると有利になります。次点のクリンチャーは112なのでもしこの4頭で決まった場合、最低限でもこのような結果になります。

117 チュウワウィザード
117 テーオーケインズ
115 オメガパフューム
112 クリンチャー
(117+117+115+112)÷4=115.25

この組み合わせなら年間レースレーティングが115以上になる可能性が高くなります。もちろん帝王賞のレーティングも反映されるため、帝王賞の方が高い場合はそちらが使用されます。

ただし、離れた4着でレーティングが低い馬が入ってしまいますと年間レースレーティングで115未満になる可能性があります。

例えば、チュウワウィザード、テーオーケインズ、オメガパフュームが上位3着まで独占し、先頭から10馬身離れた4着にメイショウハリオが入ったと仮定します。
更に4頭ともプレレーティング以下で決まった場合、年間レースレーティングは次のとおりになります。

117 チュウワウィザード
117 テーオーケインズ
115 オメガパフューム
109 メイショウハリオ
(117+117+115+109)÷4=114.50

年間レースレーティングが115まで届かないケースが発生します。そのため、プレレーティング110以下の馬(スワーヴアラミス等)が4着以内に入る場合、出来るだけ接戦になり年間レースレーティング115以上が確定する111以上もらえる状況になればベターでしょう。あと、5着以下も接戦になった場合は凡戦と判定される可能性があるためケースバイケースになるでしょう。

また、勝ち馬はレーティング115程度までは取得できる見込みのため、極端な話だと2~4着が高レーティングで占めた時点でレーティング条件はほぼクリアできると言っていいでしょう*3

まとめるとこのようになります。

  • プレレーティング115以上の3頭とも4着以内に入る
    4着以内が2頭なら他2頭の着差や着順次第、1頭ならかなり厳しい
  • 4頭目は既にプレレーティング111以上のクリンチャー、オーヴェルニュが理想
    上記以外の馬の場合、先頭の馬と着差が出来るだけ小さい、または1着がいい

 

申請時点のレーティング

G1昇格の場合、申請期限が8月第3金曜日と決められています。

そのため、2021年のように帝王賞終了時点の年間レースレーティングが111.25のように低い場合は申請にいい影響は与えないでしょう。また、2020年のようにチャンピオンズC終了時点でギリギリ超えるようなケースでも、帝王賞終了時点では115未満のため判断に迷う可能性があります。

大井競馬が現時点のレーティングと関係なく申請を出せばいいのですが、そこは大井の判断次第でしょう。

理想は帝王賞終了時点で年間レースレーティング115以上を獲得すること、更に下方修正の可能性も考慮して年間レースレーティング116以上あれば盤石だと思います。


LRからG1への昇格

レーティングの条件を満たした場合、ここが最後の難関となるでしょう。
帝王賞は国内だとJpn1格付けですが海外ではもちろんそんなことは通用しません。2022年の国際的な格付けはLRです。通常はG3→G2→G1とステップアップが原則のため、APCでも特殊事例として扱われます。

過去の例外的なステップアップだと直近ではサウジカップの格付け無しからG1へ一気に昇格したパターンがあります。ただし、IFHAの発表を見るとパート3→2国入りと共にIRPACから承認されておりAPCの関与が不明のため、IRPACが直接決定した可能性もあります。

そのため今回帝王賞が行おうとするパターンとは異なるためあまり参考にはならないと思います。

APCの会議・投票まで進んだ場合、このような事例がどのように扱われるのか注目です。

 

帝王賞はG1昇格できるのか?

以上より帝王賞がG1昇格可能なのかは全くわかりません

まずは、最低でもレーティング条件は満たす必要があります。

次に日本グレード格付管理委員会の全会一致の承認ですが、実質JRAとNARの職員と日本軽種馬協会の担当者なのでこちらも問題無いと思われます。

あとはAPCの承認がどのようになるか全く分かりません。と言うのもサウジカップは2年間施行後いきなりG1格付けされましたが、賞金とレーティングが段違いで既に国際競走として実施されており、サウジアラビアのパート2国の承認とセットで行われました。しかし、帝王賞の場合は賞金もレーティングもG1としては平凡な数値でかつ、国際競走としての実績が無いため、どのような評価を受けるか見当がつきません。

まずは6月29日(水)のレースを見てレーティング条件を満たせるかどうかからの判断になるでしょう。

 

G1昇格された場合のメリット

もしLRからG1へ昇格した場合、日本のレースでもいきなりG1昇格が可能になる前例が生まれます。そのため、先日発表された2024年から開始予定のダート三冠レース(羽田盃東京ダービージャパンダートダービー)もレーティング条件を満たせばいきなりG1へ昇格する道が見えてきます。

また、これは私の期待と思いですが、LR→G1へ昇格したことを受けてオーストラリアのジエベレストやオールスターマイルといった格付けが無い高額レースも刺激を受けて、オーストラリアパターン委員会がいい方向へ動けばベストだと思います。

 

参考資料

*1:過去3年の年間レースレーティングの平均値

*2:リステッド・リストリクテッド:制限付きのリステッド。外国調教馬へ開放されていないJpn1~3の場合、海外向けは全てこの表記

*3:ただしレーティングが下方修正される可能性もあるため高いに越したことはありません