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東京大賞典はどのようにしてG1昇格したのか

先日の帝王賞ではメイショウハリオが優勝、2着から4着まではプレレーティング115以上の馬が入線し、レーティング上はG1昇格の目途が立ちそうですね。

あとは大井競馬が申請を行い、日本グレード格付管理委員会とアジアパターン委員会の承認を得られればG1格付けとなります。ただし、帝王賞の国際上の格付けはLR(リステッド・リストリクテッド)なので、グレード格付けは原則G3からスタートする両委員会のルールとは反します。この点もあり認められるかは両委員会次第なので判断を待ちましょう。

LRからG1へいきなり昇格したケースだと日本では東京大賞典の例*1があります。東京大賞典はどのようにG1昇格したのか当時のルールを元に確認してみましょう。

 

概要

東京大賞典は2010年まではJpn1格付けで施行、2011年からG1格付けで施行されています。TCKの当時の案内はこちらです。

www.tokyocitykeiba.com

発表日は2010年10月18日、日本グレード格付け管理委員会からG1格付けの許可を受けたことも分かりますね。ルール上は直前のバージョンの日本グレード格付け管理要綱が該当します。

 

日本グレード格付け管理要綱(2010年改正版)

【注意】こちらの内容は2010年当時の内容になります。
最新版(2022年時点)は下記をご覧ください。

gachach.hatenablog.com

 

発表日2010年10月18日より直前の改正日は2010年10月7日なので早速見ていきましょう。

日本グレード格付け管理要綱(2010年10月7日改正)の一部

用語・略語

要綱内の略語を予め記載します。

委員会:日本グレード格付け管理委員会

競馬会:日本中央競馬会JRA

ARF:アジア競馬連

IRPAC:国際格付番組企画諮問委員会(世界における格付け機関

WRSC:ワールドランキング統括委員会

各主催者:地方競馬の主催者(大井、川崎、盛岡など) ※NARではありません

APC:アジアパターン委員会、アジア・オセアニア等の格付統括機関

 

目的

1.目的
日本の平地重賞競走について、グレードⅠ(GⅠ)、グレードⅡ(GⅡ)、グレードⅢ(GⅢ)の適格性を審査することを目的とし、本要綱を定める。

日本グレード格付け管理要綱の目的の説明です。G1~G3の格付け管理がなされます。当時はリステッドの表現がありませんでした。

 

格付け管理委員会

2.格付け管理委員会
前項の目的を達成するため、日本グレード格付け管理委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、この基準に則って格付け審査を行い、第6項に定める昇格・降格を決定する。委員は、日本中央競馬会(以下「競馬会」という。)2名(競走部門長およびハンデキャッパー)、地方競馬全国協会2名(競走担当理事およびレーティング責任者)、日本軽種馬協会1名、アジア競馬連盟(以下「ARF」という。)日本代表国際格付番組企画諮問委員会(IRPAC)委員1名、ARF日本代表ワールドランキング統括委員会(WRSC)委員1名の合計7名とする。

委員会の構成説明です。内訳は次のとおりになります。

  • JRA競走部門長
  • JRAハンデキャッパー
  • NAR競走担当理事
  • NARレーティング責任者
  • 日本軽種馬協会
  • ARF日本代表のIRPAC委員
  • ARF日本代表のWRSC委員

現在と役職名など若干異なりますが、組み合わせは現在と同じく、実質JRA職員4名、NAR職員2名、日本軽種馬協会1名になります。

 

格付け対象競走

3.格付け対象競走
格付けの対象となる競走は、中央競馬の平地重賞競走および地方競馬で行われるダート交流重賞競走のうち、馬の生産地による制限がなく外国調教馬も出走できる競走に限る。

格付け対象のレースの説明です。現在と対象レースや説明が異なりオープン競走は記載されていません。また生産地や調教国の制限がある場合も対象外となっています。

 

グレードの定義

格付け

4.グレードの定義
(1)格付け
 グレードI競走(GⅠ競走)
  年齢別、競走距離別の最優秀馬を選定し、競走馬の生産の
  指標となる競走体系上最も重要な競走。
 グレードⅡ競走(GⅡ競走)
  グレードI競走に次ぐ重要な競走。
 グレードⅢ競走(GⅢ競走)
  グレードI競走、グレードⅡ競走以外のグレード競走。

格付けの説明になります。リステッドの表記がありません。

 

競走数

(2)競走数
GⅠ競走はGⅡ競走より少なく、また、GⅡ競走はGⅢ競走より少なくなければならない。

G1レース数>G2レース数>G3レース数にする必要があります。現在と同じ表記になります。

 

格付け基準

本賞金額

5.格付け基準
(1)本賞金額
本賞金額については、競走種別・グレード別に原則として以下の金額を満たすものとする。
2歳
 GⅠ   ・・・1着 3,200万円以上 総額5,440万円以上
 GⅡ   ・・・1着 2,400万円以上 総額4,080万円以上
 GⅢ   ・・・1着 1,600万円以上 総額2,720万円以上
3歳
 GⅠ   ・・・1着 4,000万円以上 総額6,800万円以上
 GⅡ   ・・・1着 3,000万円以上 総額5,100万円以上
 GⅢ   ・・・1着 2,000万円以上 総額3,400万円以上
3(4)歳以上
 GⅠ   ・・・1着 5,000万円以上 総額8,500万円以上
 GⅡ   ・・・1着 4,000万円以上 総額6,800万円以上
 GⅢ   ・・・1着 3,000万円以上 総額5,100万円以上

リステッドが無いこと以外は現在と同じ金額です。

 

競走内容(レーティング)

(2)競走内容(レーティング)
競走種別・格付けごとに下表のレースレーティング数値を基準とする。

レースレーティングー覧(単位:ポンド)

格付け GⅠ GⅡ GⅢ
2歳 110 105 100
 (牝馬限定) 105 100 95
3歳・3(4)歳以上 115 110 105
 (牝馬限定) 110 105 100

※ただし、GⅠ競走については5ポンド、GⅡおよびGⅢ競走に
 ついては、3ポンドの猶予を認める。

※レースレーティング
 ①年間レースレーティング
  当該レースで上位4着までに入線した馬のワールドサラブレッドランキング委員会(WTRC)という。)の公式レーティングの平均値をいう。
  なお、牝馬限定以外の競走において、上位4着までに牝馬が入着した場合には、牝馬アローワンスを加算して算出する。
  また、当該レース出走馬のうち、レーティングの高い上位4頭の馬のレーティングを用いて算出することができる。
  その場合も牝馬アローワンスは加算するものとする。
 ②グレードレースレーティング
  「年間レースレーティング」の直近3年間の平均値をいう。
  なお、グレードレースレーティングを算出する場合に、直近5年間のうち、レーティングの高い順の3年間の値を用いることができる。

レーティングの説明ですが現在と大きく異なるのがわかるでしょう。猶予を考慮したレースレーティングは次のとおりになります。

猶予反映済レースレーティング一覧

格付け GⅠ GⅡ GⅢ
2歳 105 102 97
 (牝馬限定) 100 97 92
3歳・3(4)歳以上 110 107 102
 (牝馬限定) 105 102 97

使い方は現在と異なりますが、一段階近く低いのが分かります。

また、レースレーティングの計算方法も異なり、出走馬の中でレーティングが高い上位4頭を使うことも当時は可能でした。

あとグレードレースレーティングと聞きなれない言葉も出てきました。基本的にはパターンレースレーティングと同じく年間レースレーティングの直近3年間平均値ですが、グレードレースレーティングでは直近5年間のうち値が高い3年間の平均値を使用できます。ただし、後述でもありますが昇格には使用されず、降格のみに使われます。

 

昇格・降格

昇格

6.昇格・降格

(1)昇格

①競走の昇格(新たな格付けを含む。以下この項において同じ。)は、競馬会および各地方競馬主催者より申請があった場合、委員会において当該競走を審査する。

②競走の昇格は、昇格する予定の年度に上記5-(1)の基準を満たし、かつ、直近2年間の年間レースレーティングが5-(2)の基準値を満たしていることを条件とする。なお、WTRC公式レーティングが未確定の競走については暫定の年間レースレーティングを用いることができる。

③競走の昇格は、委員会において審査を行い、決定は全会一致を条件とする。

ここも現在の昇格条件や手順が異なります。現在は直近年の年間レースレーティングとパターンレースレーティングの2種類の条件を満たす必要があります。しかし、当時は直近2年間の年間レースレーティングを満たしていれば条件クリアとなりました。しかも、猶予措置が2種類あります。

1つ目は年間レースレーティングは上位4着の他に出走馬中レーティングが高い4頭の数値も使用できました。

もう1つは数値自体に猶予がある点です。G1の場合は5ポンドまで猶予がありますので、当時の東京大賞典の場合は年間レースレーティング110以上を2年連続で記録すれば、レーティングの条件をクリアできました。

またアジアパターン委員会の承認がありません。G1昇格申請時にアジアパターン委員会で承認が必要になったのは日本だと2011年10月6日改正版以降になります。また、「新たなグレード格付けは特別な場合を除いてG3からスタートする」ことになったのは2012年10月11日改正版からです。

 

降格

(2)降格
①競走の降格(グレードの取消しを含む。以下この項において同じ。)は、上記については、上記5-(1)の基準を下回った場合、またはグレードレースレーティングが2年連続して上記5-(2)の基準を下回った場合、委員会において当該競走の降格を審査する。

②競走種別または性別を変更した競走、ならびに施行時期、競走距離または負担重量等に大きな変更があった競走については、降格することがある。

③競走の降格は、委員会において審査を行い、決定は委員会の多数決を条件とする。

降格も現在の条件とは大きくことなります。先ほど説明したグレードレースレーティングが使用され、2年連続で下回った場合に日本グレード格付け管理委員会で降格審査が実施されます。

現在と異なり、警告や自動降格、1年間の猶予、アジアパターン委員会の審査は当時はありませんでした。

 

格付けの申請

7.格付けの申請
競馬会および各地方競馬主催者は、格付けの対象となる競走を行う予定の年度の前年9月末日までに、委員会に申請するものとする。
委員会は申請された格付け案を審査し、審査後は速やかに重賞競走の格付けを競馬会および各地方競馬主催者へ通知するものとする。

申請期限は9月末までに行うことは現在と変わりありません。ただしG1競走も同じ期限になり、アジアパターン委員会の上申も当時はありません。

 

事務局

8.事務局
委員会に事務局を置く。事務局長は競馬会競走部番組企画室長の職にある者が当たるものとする。

事務局は現在と同じですね。

 

要綱の変更

9.要綱の変更
本要綱を変更する場合は、委員の過半数の承認を条件とする。

要綱を変更する際の条件も同じです。

 

附則

附則
この要綱は、2008(平成20)年10月31日から施行する。
附則
この要綱は、2009(平成21)年11月6日から施行する。
附則
この要綱は、2010(平成22)年10月7日から施行する。

今までの施行・改正履歴が掲載されています。

 

現在との相違点

大まかにまとめると次のようになります。

  • リステッドの格付け処理が無い
  • レーティングに猶予がある
  • アジアパターン委員会の審査、上申等が無い
  • 昇格条件が大幅に異なる
  • 降格条件も大幅に異なる
  • 格付けはG2やG1から始めてもよかった

 

東京大賞典のG1昇格について

当時のルールに従い条件を満たしているか確認しましょう。

賞金

1着5000万円以上、総額8500万円以上が条件になります。
2011年東京大賞典は1着賞金8000万円、総賞金1億3600万円のため、条件を満たしています。

 

レーティング

直近2年間の年間レースレーティングが115以上あることです。ただし、5ポンドの猶予があるため、110以上でも可能です。該当年の2008年、2009年の2年間を見てみましょう。

 

2008年年間レースレーティング

1着 カネヒキリ 119
2着 ヴァーミリアン 118
3着 サクセスブロッケン 114
4着 ブルーコンコルド 114

年間レースレーティング 116.25

2008年度 JPNサラブレッドランキング GI競走レーティング(上位4頭)より

年間レースレーティングが116.25のため、5ポンド猶予が無くても条件クリアしました。

 

2009年年間レースレーティング

1着 サクセスブロッケン 117
2着 ヴァーミリアン 117
3着 ロールオブザダイス 112
4着 セレン 112

年間レースレーティング 114.50

2009年度 JPNサラブレッドランキング GI競走レーティング(上位4頭)より

年間レースレーティングが114.50と0.50ポンド不足しています。猶予措置で110以上でもクリアですが、他の出走馬でレーティングが高い馬がいるか探してみましょう。

5着 ゴールデンチケット 108
6着 ボンネビルレコード 108
7着 フリオーソ 114
8着 サイレントスタメン 100
9着 ブルーラッド 106
10着 ヤマトマリオン 105+4

2009年度 JPNサラブレッドランキングより

7着フリオーソがレーティング114と3着馬4着馬より高い数値を持っていますね。出走馬レーティング上位4頭で計算すると以下のようになります。

サクセスブロッケン 117
ヴァーミリアン 117
フリオーソ 114
ロールオブザダイス 112

年間レースレーティング 115.00

これで2009年も条件クリアしたことが分かり、直近2年間の年間レースレーティングの条件を満たしました。

 

補足

当時はアジアパターン委員会への上申・承認が無いため以上になります。また、「グレード格付けは特別な場合を除いてG3競走とする」のような文言もないため、LR→G1のような飛び級でも問題ありませんでした。

 

おわりに

以上、東京大賞典が2010年秋にG1昇格を発表、2011年からG1格付けを得た検証結果になります。まとめると当時はLRからG1への飛び級の昇格も何の問題なく、またレーティング条件は今より数値面で優遇されていた点がお分かりいただけたでしょう。

2012年競馬番組からアジアパターン委員会の介入が始まり、2013年競馬番組以降ではグレード格付けは原則G3から開始することが始まりました。

東京大賞典がG1昇格した時代と現在は昇格するための難易度が大きく異なります。2022年帝王賞はレーティング条件がクリアできる見込みなので、大井競馬が昇格申請をするならば無事にG1昇格できることを願います。

 

参考資料

*1:当時のブルーブック上はLRの表記が無くLで表記