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2022年版ニュージーランドパターン委員会レポートの概要を読んでみた

ニュージーランド競馬のグループ格付け団体としてニュージーランドパターン委員会(NEW ZEALAND PATTERN COMMITTEE、略称:NZPC)が存在します。日本で言えば日本グレード格付管理委員会に相当する機関になります。今回は毎年9月中旬~下旬に発行されるレポートの概要と触りを読んでみましょう。

欧州パターン委員会を振り返った回もそうですが、翻訳や読み取りに不安があるため、怪しいと思われる部分はコメント欄等でご指摘いただけると助かります。

レポートについて

レポートはReport of the NEW ZEALAND PATTERN COMMITTEEとしてニュージーランドサラブレッドレーシングの公式サイトで公開されています。

loveracing.nz

上記URL先の「Report of the NZ Pattern Committee 2022」の右にある「Download」をクリックするとPDFを入手できます。レポートは2022年版だと32ページ、概要にあたるエグゼクティブサマリーと6つのセクションに分かれています。セクションの大まかな説明は下記のようになります。

  1. はじめに
  2. 歴史
  3. 作業手順
  4. コメント&提言
  5. 集計
  6. 2021~22年ニュージーランドクラシフィケーションとWBRRレースレーティング

今回はエグゼクティブサマリーに関わる部分のみを書きますが、興味がある方は詳細部分にあたる各セクションを読んでみるのもいいかもしれません。

 

レポート概要

ではエグゼクティブサマリーを項目毎に読んでいきましょう。

 

説明

1.2021/22年シーズンに実行されるレースのパターンレビューはニュージーランドパターン委員会(NZPC)によって完了しました。2022/23年シーズンに開催されるグループレースとリステッドレースのスケジュールが確定しました。

まずはレビューの完了報告です。ニュージーランドは南半球スケジュールのため、8月から翌7月を1シーズンとしてカウントします。アジア・オセアニア圏では南半球のオーストラリアはもちろん、香港やドバイを含めたUAEサウジアラビアも同様のスケジュールでシーズンを管理されています。

対象レースはグループレースとリステッドレースとなります。

 

変更点

2.改定後のスケジュールでは2022/23年に予定されている平地パターン総レース数は150レースで変更ありません。

2022/23年シーズンのパターンレース数は150レースと前年と同じです。

 

3.NZPCは降格2レース、昇格1レースを実施しました。

G2→G3の降格が2レース、リステッド→G3の昇格が1レース、計3レースに変動がありました。

 

パターンレース削減の計画

4.NZPCは、パターンレースの数を大幅に削減し、NZパターンを国際的な基準であるレース出走率5%に近づけるために、パターンの見直しを行う小委員会を設置することに合意しました。

 NZPCは、過去3シーズンのレース数の継続的な減少により、NZパターンレースの割合が6%以上に増加していることを懸念しています。このことは、国際的な関心を呼び起こし、ニュージーランド・パターンの品質に対する認識にも影響を与え始めています。ほぼ全てのリステッドレースが必要なレーティング基準を満たしていますが、これは海外の管轄の多くの非リステッドレースについても言えることです。さらに、NZPCは、既存のパターンレースが多すぎるために、価値のあるレースの推進に制約があり、パターンの硬化につながることを懸念しています。

 NZPCは総レース数の5%へ直接移行することは達成されているレースレーティングと比較して行き過ぎかもしれませんが、それでも現在の6%を超えるレベルからパターンレースの割合を大幅に減らす必要があると考えています。

 NZPC小委員会がパターンの見直しを行い、2023年1月末までにNZPCへの最初の提言を準備し、その後、影響を受けるクラブと協議することが合意されました。協議とフィードバックを経て、最終的な勧告は2023/24年シーズンからの実施に向けて、2023年8月のNZPCの年次総会で検討されます。

ニュージーランド競馬では全体レース数が減少傾向のため、パターンレースの割合が増加していることが懸念されているようです。現在は6%以上なので5%へ抑えるため小委員会を設置、2023年1月末までに提言→協議をする流れになります。2023年版の同レポートではなにかしらの発表があるでしょう。

 

5.NZPCは、一部のレースの賞金をパターンステータスから分離するメカニズムとして、「ヘリテージ」レースの概念を強く支持します。

 これにより、降格されたレースが以前の賞金を維持するかもしれません。これは純粋なレーティングの観点から格付けされない可能性がありますが、主要な目的であり歴史的に重要であり広く一般的にアピールしているレースの降格を可能にするものであります。NZPCは、そのようなレースは一般的にハンディキャップ条件で施行するのに最も適していると考えています。NZPCは、NZTRが原則としてこの概念を支持していることを指摘しています。

この項を読む限り、ニュージーランド競馬では格付けと賞金がリンクするようですが、ヘリテージと呼ばれる概念を検討しているようです。日本がLR格付けに対してJpn格付けを使用したり、香港がLR格付けに対して4歳クラシックシリーズと名付けて強調するようなものでしょうか。メリットとしては下記2点になります。

  • 格付けが低いレースでも賞金を維持することが可能
  • 格付けが低くなった場合でも、重要なレースと認識させやすい

 

6.NZPCは、パターンの理想的な形はピラミッド型であると見ています。これに向けて着実に前進を続けています。

ピラミッド型とはレース数の比率がG1<G2<G3となることです。日本やアジア、IRPACのガイドラインでも同様のことが記載されていますね。

 

アジアパターン委員会関連

7.NZPCがアジアパターン委員会(APC)グランドルールの下で運営されてから今年で10年目、これらはNZPCおよび業界と協議してNZTRによって承認されました。

 ニュージーランドのレースでレーティング基準を満たさなかった初回はアラートが発行される可能性があります。ほとんどの場合、翌年のレースでレーティング基準を満たさなかった場合、警告が発行されます。次回のレースで基準を満たした場合は、アラートや警告が無い状態に戻ることもあります。

 G1・G2レースで、3年連続で基準を満たせなかった場合、APCによってそのレースの是非が検討され、投票が行われます。降格は各国の過半数によって承認されなければなりません。影響を受けた国は投票することができません。G3・リステッドレースは条件に大きな変更が提案されない限り、自動的に降格されます。国による自主的な降格は引き続き行われる可能性があります。G1への昇格はAPC加盟国による投票が必要です。レースを降格すべきかどうかを検討する際には特別な要因が考慮されることがあり、NZPCはそのような要因を認めることにしてます。これらには、レースの4着以内だけではなく出走馬のレーティング上位4頭、過去18ヶ月のG1馬の頭数、異常な馬場状態、パターンへの影響などが挙げられます。

ニュージーランド競馬の格付けルールがアジアパターン委員会(APC)のルール下となったのは2012年からで、2022年シーズン終了時点で10年目となりました。

また、降格するための手順が日本やアジアと若干異なり、レーティングが降格基準値を下回った場合、1年目で注意・アラート(Alert)、2年目で警告(Warning)、3年目で自動降格か審査が行われます。日本では昨年NZTが警告を受けましたが、ニュージーランド競馬ではその前段階でもアナウンスがあるようです。

その他、APCのルールについてもっと知りたい方は公式サイトの「Asian Pattern Committee Ground Rules」の横にある「Download」からPDFを閲覧するか、過去記事をご確認下さい。

gachach.hatenablog.com

 

8.APCグランドルールは見直しの対象となっています。2022/23シーズンの見直しに適用されるルールは、まだ最終的に確認されていません。更に検討することにより、次のような変更が生じる可能性があることを理解しています。

 全グループレースでの許容値が現行3ポンドから2ポンドに、リステッドレースでは0ポンドに引き下げられます。

 3歳馬のレーティング基準が2ポンド引き下げられ、グループレースには2ポンドの許容値が適用されます。NZPCは年齢における斤量基準と3歳馬シーズンやその後の能力向上をより反映しているため、この変更を強く支持しています。

 これらの変更は遡及的に適用される可能性は低く、2022/23年以降の適用に制限されます。

 昇格するには、直近の年間レースレーティングとパターンレースレーティング(3年平均値)の両方において、既存のグループレーティングの基準値を2ポイント以上上回る必要があります。

 長距離戦の猶予は廃止されるかもしれませんが、2400m以上のレースでは4歳以上のレースに対して追加で2ポンドの許容値が与えられます。

 新型コロナウィルスの影響。2021/22年では各国は過去4年間のレーティングのうち3つを使用することができます。ただし、無視されるレーティングは新型コロナウィルスによる影響を受けていることが条件となります。レースが降格投票の対象となる場合、新型コロナウィルスの影響が考慮される要因となります。

APCグランドルール改正は日本をはじめとしたアジア・オセアニア南アフリカにも関わる項目です。ただし、この項目には現段階で進行中の内容と、これから改正される可能性がある内容が混ざっています。

今後ルール改正される可能性がある内容は4項目です。

  • 降格時の基準値が現行から厳格化する可能性がある
    • グループレースの場合は基準値-3ポンド→2ポンド
    • リステッドの場合は基準値と同じ
    • 例1:古馬G1の場合、降格基準は現行だと112ポンドを3年連続で下回ることが条件だが、改正後は113ポンドを3年連続で下回ることで対象となる
    • 例2:同様に古馬リステッドの場合、現行は97ポンドだが、改正後は100ポンドに引き上げられる
  • 3歳馬の基準値が現行から2ポンド引き下げられる可能性がある
    • 例:3歳G1の場合、現行の基準値115-2=113ポンドが新基準値となる
    • 例:3歳G1の降格基準は先ほどの改正予定と合わせると、111ポンドを3年連続で下回ることが条件となる
  • 上記2項目は仮に改正ルールへ盛り込まれた場合でも2022年以前に遡及適用はされない見込み
  • グループレースが昇格する場合、既存の基準値+2ポンドと厳格化される可能性がある
    • 例:古馬G1の場合、直近年の年間レースレーティングとパターンレースレーティングの両方で115+2=117ポンド以上が必要となる
  • 古馬2400m以上のレースでは基準値-5ポンドとなる可能性がある

個人的には正直、厳格化される内容のハードルが高すぎる気もしますし、各国が影響することを考慮すると、軟化を含めてもこの案で賛成する国はあるのだろうか?と思いますが…

 

次に現在進行形で実施されていると思われる内容は2項目です。

  • 長距離戦の猶予措
  • 降格審査時に過去4年間のうち3年分の年間レースレーティングを選択できる(新型コロナウィルスの影響)

長距離戦の猶予については詳しい内容は分かりませんが、廃止されるかもしれないとの言い回しより、なにかしらの措置がある(あった)ものだと推測されます。ただし、2021年に長距離G1のオークランドCがG2へ降格した際に同レポートを読む限りだと昨年で終了予定だった可能性はあります。

降格時に過去4年間のうち3年分の年間レースレーティングを選択できる件は現在進行形だと考えられます。2022年1月JRAからNZTの格付け警告が発表された際、2021年の年間レースレーティングは除外されて審査されたことからも分かります。おそらく、同様の措置が他のレースでも適用可能かもしれません。が、JRAの場合は実際に警告が発行されないと公開してくれないため、適用されているのかどうか分かる手段はありませんが…。

 

9.2021/22年シーズンから適用されるAPCグランドルールの変更点の1つは、牝馬限定戦の基準値と許容範囲が、混合戦に適用される牝馬アローワンス4ポンドではなく、5ポンドだったという過去の異常事態を取り除いたことであります。これは既に修正され、牝馬限定戦に要求される基準値が事実上1ポンド引き上げられました。

こちらは2021年から既に適用されている牝馬限定戦のレーティング基準値+1ポンドの内容です。2020年までは例えば牝馬限定古馬G1だと基準値は110でしたが、2021年からは111となっています。

これは牝馬アローワンスが4ポンドなことに合わせたものです。

 

レーティングとワールドベストレースホースランキング(WBRR)

10.レースレーティングは、レースの上位4頭の平均値で、そのシーズンのワールドベストレースホースランキング(WBRR)の最高値によって決定されます。WBRRはポイント制の国内ニュージーランド・ハンディキャップ評価とは関係がなく、2つの指標を混同しないよう注意してください。

ニュージーランド競馬ではレーティングとは別でハンデキャップ用の評価があり、混同しないように注意する内容となっています。

 

11.NZPCは、一部のニュージーランドの2歳・3歳のレースにつけられたWBRRのレーティングに引き続き懸念を持っています。そのため、同じシーズンに海外で活躍しない限り、レーティングは世界基準の最低ラインとなる傾向があります。さらに、多くのニュージーランド馬は3歳シーズンを終えて輸出され、ときには他の国の古馬として著しく高いレーティングを獲得することもあります。これは、ニュージーランドでのキャリアで競ったレースにレーティングが引き継がれない点で問題になります。統計的証拠は、これが問題であることをある程度裏付けしており、引き続き追及していく予定です。

ニュージーランド競馬の実情とレーティングシステムが噛み合っていないことについての不満が見え隠れしています。実際、レーティングの評価期間は最長でも1年なので、古馬になってからレーティングが上がったところで3歳時に遡及適用はされません。

 

12.レースの質を評価するために使用されるWBRRレースレーティングは、このレポートのセクション6として追加されます。

レース毎の年間レースレーティングはセクション6に記載されています。

 

13.これらが発生した場合、APCグランドルールへの提案された変更は、今後シーズンの一部のニュージーランドレース、主に古馬のG1レーティングに大きな圧力をかけ影響を与える可能性があります。それはまた、より多くの古馬のリステッドレースに圧力をかけるでしょう。このことは、NZPCが「ヘリテージ」レースのコンセプト、特に歴史的にハンディキャップとして実施され、レース参加者や一般の人々にとって魅力的であることを示すレースの導入を支持する主な理由となっています。

APCグランドルールの変更についての不安とその対策が書かれています。

 

総括

14.現在、22レースがアラート (昨年は 10レース) で、7レースが警告(昨年は2レース)です。

日本と比較すると警告はかなり多いです。

 

おわりに

以上でエグゼティブサマリーの解説等になります。これだけでも量はなかなかありますが、他にも各セクションや過去の年のレポートもあるため、興味があれば是非見るのは如何でしょうか。特にセクション5ではアラート・警告・降格・昇格について各レース毎に丁寧な説明がされているためお勧めです。

それとここまで詳細なレポートを公開している国は他に見当たりませんのでニュージーランドサラブレッドレーシングとニュージーランドパターン委員会には感謝を申したいぐらいです。

JRAもここまでとは言いませんが、各ルールの公開はして欲しいと思いました。

 

参考資料