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ニュージーランドパターン委員会レポート2023を読んでみた アジアパターン委員会ルールの厳格化

先日、ニュージーランドパターン委員会*1が2023年版レポートを公開しました。内容を読んだところ、アジアパターン委員会に関するルール変更が記載されているため、今回はその点を中心に書いてみます。

なお、翻訳や英文読み取りに不安があるため、表現上怪しいと思われる部分がありましたらコメント欄等でご指摘いただけると助かります。

また前年の2022年版は触りだけ読んだ記事がありますので良ければ合わせてご覧いただければと思います。

gachach.hatenablog.com

 

レポートについて

レポートはReport of the NEW ZEALAND PATTERN COMMITTEEとしてニュージーランドサラブレッドレーシングの公式サイトで公開されています。

nztr.co.nz

上記URL先の「Report of the NZ Pattern Committee 2023」の下にある「CLICK HERE」をクリックするとPDFを入手できます。レポートは2023年版だと39ページ、概要にあたるエグゼクティブサマリーと6つのセクションに分かれています。セクションの大まかな説明は下記のようになります。

  1. はじめに
  2. 歴史
  3. 作業手順
  4. コメント&提言
  5. サマリー
  6. 2022~23年ニュージーランドクラシフィケーションとWBRRレースレーティング

今回は前編としてアジアパターン委員会に関わる部分、後編としてニュージーランドパターン委員会が昇格、降格について対応した内容を書きます。興味がある方は原文を直接読んでみるのもいいかもしれません。

結果だけ知りたい方はアジアパターン委員会ルール変更点まとめまで読み飛ばすといいでしょう。

 

アジアパターン委員会に関わる内容の抜粋

エグゼクティブサマリー

8. APCグランドルールでは、2022/23年シーズン以降に適用されるいくつかの変更がありました。

 3歳限定戦の基準値が2ポイント引き下げられましたが、同条件の許容値は現行3ポイントから2ポイントに引き下げられました。最終的な効果は、以前のレベルから基準値を2ポイント、許容値が1ポイント下がることです。

 NZPCはこの変更を、年齢における斤量基準をより反映し、多くの馬が3歳シーズン中とその後に自然に向上していくことを強く支持しました。ニュージーランドの3歳馬の多くは、特に海外の管轄区域でレースに出走すると、古馬になってもレーティングを向上させ続けています。

 APCグランドルールでは、リステッドレースに3ポイントの許容範囲を設けているが、NZPCはこれを寛大すぎる許容範囲とみなしている。そのためNZPCは、リステッドレースの許容範囲を完全に撤廃し、パターン下位のレースの質を向上させることを決定した。

 昇格するには、直近の年間レースレーティングとパターンレースレーティング(3年平均値)の両方において、上記カテゴリーのグループ格付け基準を少なくとも2ポイント上回る必要があります。

 2400m以上のレースに対する長距離戦の猶予は廃止されました。このカテゴリーのレースをサポートするための潜在的な措置については引き続き協議します。

 新型コロナウィルスの影響。2022/23年では各国は過去4年間のレーティングのうち3つを使用することができます。ただし、無視されるレーティングは新型コロナウィルスによる影響を受けていることが条件となります。レースが降格投票の対象となる場合、新型コロナウィルスの影響が考慮される要因となります。

 

10. ニュージーランドの3歳馬競走に割り当てられたWBRRレーティングに対するNZPCの懸念は、2022/23年シーズンにエスカレートしました。レーティング112を超える馬のニュージーランド調教馬は、APCハンデキャッパーによって調整されます。NZPCはこのプロセスに大きな懸念を抱いています。2022/23年の3歳馬は前例のない成功を収め、オーストラリアとニュージーランドの専門家からはここ数年で最高と評価された。逆に、2022/23年のニュージーランドの3歳馬限定戦は、APCのハンデキャッパーによって、ここ数年で最低レベルと評価された。 

出発点として、ニュージーランドの3歳馬のレーティングは、その馬が同じシーズンに海外で好成績を収めない限り、世界標準の下限にあるのです。さらに、海外レースに出走したニュージーランド競走馬の多くが古馬になってから著しく高いレーティングを獲得しており、これは明らかに以前の3歳馬のレーティングが過度に保守的であったことを示唆している。その例は枚挙にいとまがない。レースの質を評価するために使用されるWBRRレースレーティングは、本報告書のセクション6として添付されている。

NZPCは、NZハンディキャッパー、NZPCのレースレーティング専門家、およびNZPC外部の1名からなるNZレーティング・レビュー・パネルを正式に設置することを決定した。このパネルはNZ馬のWBRRレーティングの評価を支援する。

 

セクション3 作業手順

3.4 昇格/降格

3.4.3 レースを降格する条件(警告プロセス)

※(a)~(f)は省略

(g) APCは最近、グラウンドルールを見直しました。確認された変更点は、NZPCが予想していたよりも少ないですが、以下の通りです:

 i) 3歳馬の基準値を2ポイント引き下げ、2ポイントの許容範囲をグループレースに適用する。NZPCはこの変更によって、年齢における斤量基準をより反映し、多くの馬が3歳シーズン中とその後に自然に向上していくことを強く支持します。

 ii) 昇格は、直近の年間レースレーティングとパターンレースレーティング(3年平均値)の両方において、上記のグループレーティングの基準を少なくとも2ポイント上回る必要がある。

 iii) 2400mを超えるレースに対する長距離戦の格下げ猶予は廃止されましたが、これらのレースに関する議論は続いており、さらなる変更が予想される可能性があります。

 iv) まだAPCルールではありませんが、NZPCは、これまでリステッド競走に適用されていた3ポイントの許容範囲を撤廃することを選択しました。

   v) 新型コロナウィルスの影響。2022/23年では各国は過去4年間のレーティングのうち3つを使用することができます。ただし、無視されるレーティングは新型コロナウィルスによる影響を受けていることが条件となります。レースが降格投票の対象となる場合、新型コロナウィルスの影響が考慮される要因となります。

 

3.4.4 レースの昇格条件

昇格対象となるレースの場合:

※(a)~(c)は省略

(d) 最新のAPCルールに基づき、競走がパターンレースレーティング(過去3年平均)と直近の年間レースレーティングの両方が上記カテゴリーに必要な基準値を2ポイント以上上回った場合、昇格の資格を得られます。なお、昇格資格があるからといって、上記の他の要素を考慮してNZPCが昇格を決定する必要はありません。これは特に、レース自体がターゲットではなく、より高いパターンレーティングを持つ別のレースへの確立された導入として機能する場合に当てはまります。

(e) レースをG1またはG2へ昇格するには、APC過半数の承認が必要です。提案国は投票することができない。

 

セクション4 コメント&提言

4.10 ニュージーランドの3歳レースに割り当てられたWBRRレーティングに対するNZPCの懸念は、2022/23年シーズン中にエスカレートし、そのレーティングにほとんど自信が持てなくなった。レーティングが112を超える馬に対するNZ由来のレーティングは、APCハンデキャッパーによる調整の対象となり、NZPCはこのプロセスに関して重大な懸念を抱いています。2022/23年産の3歳馬は前例のない成功を収め、オーストラリアとニュージーランドの専門家から長年で最高のものと評価されました。逆に、2022/23年のNZ3歳レースはAPCハンディキャップによって緩和され、ここ数年で最低レベルのレーティングとなった。

(以下略)

 

アジアパターン委員会ルール変更点まとめ

レポートの内容をかいつまみ、まとめると次のようになります。

 

レーティングに絡む変更点

エグゼクティブサマリー8、セクション3.4.3、3.4.4より下記の内容が判明しました。

  • 3歳限定戦のレーティング基準値がこれまでと比較して2ポンド減
  • 3歳限定戦の降格時の許容範囲が3→2ポンド減
  • 全ての昇格時の条件がレーティング基準値+2ポンド
  • 以上の内容が2023/24年シーズンの格付けから開始

具体的には2点の変更です。

1点目は事実上、3歳限定戦のレーティング基準が設けられ、同条件の降格基準が若干緩和したこと。2点目は昇格に必要なレーティングがほぼ全般的に上がるということです。いずれも2023/24年シーズンの格付けから既に開始されています。

具体的なレーティングは下記の表のようになる見込みです。括弧内の数値は現行基準との比較になります。

 

新レーティング基準値
年齢・性/格付け G1 G2 G3 L
2歳 110 105 100 95
2歳牝馬限定 106 101 96 91
3歳 113
(-2)
108
(-2)
103
(-2)
98
(-2)
3歳牝馬限定 109
(-2)
104
(-2)
99
(-2)
94
(-2)
古馬 115 110 105 100
古馬牝馬限定 111 106 101 96

3歳戦のレーティングを追加した形式です。しかし、今回のルール変更によってレーティング基準値をそのまま使用する場面が実質無くなったため、この表だけではあまり意味はありません。

 

新昇格基準値
年齢・性/格付け G1 G2 G3 L
2歳 112
(+2)
107
(+2)
102
(+2)
97
(+2)
2歳牝馬限定 108
(+2)
103
(+2)
98
(+2)
93
(+2)
3歳 115 110 105 100
3歳牝馬限定 111 106 101 96
古馬 117
(+2)
112
(+2)
107
(+2)
102
(+2)
古馬牝馬限定 113
(+2)
108
(+2)
103
(+2)
98
(+2)

2023/24年以降の昇格時の基準値です。3歳戦以外のレースで現行よりも+2ポンド昇格基準が厳格化しました。直近の年間レースレーティング、パターンレースレーティングの両方を満たす必要がある点は変わりありません。

 

新降格基準値
年齢・性/格付け G1 G2 G3 L
2歳 107 102 97 92
2歳牝馬限定 103 98 93 88
3歳 111
(-1)
106
(-1)
101
(-1)
96
(-1)
3歳牝馬限定 107
(-1)
102
(-1)
97
(-1)
92
(-1)
古馬 112 107 102 97
古馬牝馬限定 108 103 98 93

一方、降格時の基準値です。現行の基準値と比較した場合、3歳戦のみ現行基準値-1ポンド緩和されたことがわかります。こちらも降格審査の手法は現行と同じく、年間レースレーティングが2年連続で降格基準値を下回った場合に警告、3年連続で下回った場合は自動降格や投票審査等があります。

 

未確定の内容

レポート内に記載されていた未確定要素は確認した限り次の3点です。

  • リステッド競走の降格許容値を-3→0ポンドにするかどうか
  • 廃止された長距離戦の降格猶予に代わるルールが作られるかどうか
  • G2昇格時でもAPC過半数の承認が必要かどうか

リステッドの降格許容値を無くす案は前回のレポートでも記載はありました。今回のレポートでAPCルールとしては採用していないようですが、NZPCは独自に採用したようです。

また、長距離戦の降格暫定猶予が今回から廃止されたようですが、それに代わる案があるかどうかは今のところ不明です。

G2昇格については例えばL→G2のようにG3を経由せず昇格する場合はAPC過半数の承認が必要で、G3→G2の昇格は各国のパターン委員会のみの判断で可能でした。しかし、セクション3.4.4では昨年と異なりG2昇格時もAPCによる過半数の承認が必要とのニュアンスで記述されています。

ただ、今回APCの変更点では明言されていないため、どのような扱いになっているのかは判断がつかないためこちらへ記述しました。

 

その他

APCルールとは直接関係ありませんが、エグゼクティブサマリー10、セクション4.10よりAPCハンデキャッパーがレーティング113以上の馬について調整を行っていることが分かりました。ただし、対象馬が全馬なのか、ニュージーランド調教馬のみなのか、あるいは国内のみ出走した馬なのかは表現の方法も不鮮明のため、判断に迷います。

実施する内容としては推測になりますが、ロンジン・ワールドベストレースホースランキング作成時のレーティング審査のようなものだと考えられます。時期としては南半球スケジュールの終盤にあたる、毎年7月下旬頃実施されるARFハンデキャッパー会議だと思われます。

 

ルール変更による影響

今回のAPCルール変更について、NZTR公式サイトにあるAPCグランドルールにはまだ反映されていませんが、今後更新されると思われます。日本では日本グレード格付管理委員会のルールにあたる日本グレード格付管理要綱も同様に変更されるでしょう。

影響範囲はアジア競馬連盟の管轄下全般の国際格付けなので、日本や香港、UAE、韓国はもちろん、レポートを公開したニュージーランドやオーストラリアのオセアニア地区、または南アフリカまで広がります。

 

日本への影響

2022年11月末、NARやJRAを始めとした各機関に全日本的なダート競走の体系整備を発表しました。その中で国際格付けを取得する項目もあり、特にG1やG2といった上位の格付け取得に向けて、レーティングが基準を満たすかどうかが大きな懸念材料となります。

例えば、帝王賞は近年の年間レースレーティングが115前後と安定し、昇格基準値115の場合ではG1昇格も見えていました。しかし、昇格基準値が117まで引き上げられると現状では足りないため、4着馬まで更にもう1段階高いレベルの出走馬が要求されます。

また、JRAの芝のレースでもG1昇格を目指すにあたっては難易度が上がりそうです。例えば北海道の競馬関係者などからG1昇格を熱望されている札幌記念についても同様で、年間レースレーティングやパターンレースレーティングでは117に満たない年もあります。

 

その他の国や地域への影響

サウジアラビアでは2月にサウジカップデーを開催があります。そのアンダーカードとしてG3が5レース実施されていますが、仮にG3→G2昇格時にレーティング基準値を満たせるかは気になるところです。

バーレーンも近年バーレーンインターナショナルトロフィーがG2へ昇格しましたが、後々G1昇格を見据えるとなれば同様でしょう。

また、韓国では先日コリアカップ・コリアスプリントが開催されましたが、G2昇格を狙う同レースにとって今回の条件厳格化は大きな壁となるかもしれません。

反対にニュージーランドでは2022/23年シーズン開始時にNZ2000ギニー、NZダービーにG1→G2への降格警告が発令されていました。シーズン終了後の年間レースレーティングはNZ2000ギニーが111.50、NZダービーは111.00と今回の条件緩和によって降格回避に成功、プラスとなった面もあります。昨シーズンまでの基準112のままならば、APCで降格するかどうかの投票が行われていたかもしれません。しかし、今でも降格警告が発令された数は10レースと厳しい状況には変わりありません。

 

アジアパターン委員会の降格審査投票

また今回ルール変更と関係はありませんが、NZPCレポート2023年版を読むとアジアパターン委員会で降格審査投票が発生していました。

対象レースはレヴィンクラシック(G1)、3歳限定の芝1600m戦で日本では浅野一哉騎手がロマンシングザムーンとのコンビで優勝したことを知っている人がいるかもしれません。

2022/23年シーズン開始時点で降格警告を受けており、同シーズン必要な年間レースレーティング111に対し実際は107.75と全く足りませんでした。また出走馬のうちレーティング上位4頭の平均値でも108.25とこちらも不足した値です。

レポートによると2020/21年シーズンまでは1月開催、翌2021/22年シーズンから3月へ移動し、ダービーやオークスでは距離が長い組の出走を見込んだようです。日本で例えるとNHKマイルCのような位置付けに近いかもしれません。

NZPCは降格の代替案として従来の1月開催へ戻すことを提案、APCの投票結果は満場一致で警告に留め、1月開催での施行を条件として可決しました。

ただし、再びレーティングが基準未満の場合はG2降格の可能性が高くなる見込みです。

 

おわりに

NZPCのレポートでは2021年版からAPCルールが変更される可能性があることは示唆されていました。しかし、実際にルールが決まるとダート改革を始めとしてJRAやNARが厳しい壁をどのように乗り越えていくのかは気になるところです。

ただ過去には2018年に降格許容値が基準値-2ポンドで運用されていた時期もありますが、1年で基準値-3ポンドへ戻した実例もあるため、今後のルール運用や変更も気にしていければと思います。

最後に毎年レポートを公開して下さるニュージーランドパターン委員会に感謝申し上げます。

 

参考資料

*1:ニュージーランド競馬のグループ格付け団体