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統計で見る顕彰馬選定記者投票 票割れは本当に発生しているのか

まずは2022年の顕彰馬選定記者投票結果が発表されましたが、アーモンドアイやキングカメハメハを始め選定馬なしととても残念な結果に終わりました。来年はコントレイルやグランアレグリアが新規投票対象となる中、規則や細則も含めてどのように変化するか注目ですね。

今回の投票でもそうですが、1人の記者が投票できる頭数に上限があるため75%に届かないと思われる所謂「票割れ」「票分散」「票の食い合い」が起きている、と言った意見がとても多く見受けられました。
さて実際に「票割れ」は起きているのでしょうか?
記者名簿の投票パターンを参考に統計を見ていきましょう。

票割れの算出方法

支持・不支持の分類

まず考え方として馬から見た記者の投票は次の3パターンに分けられます。

  1. 投票した記者:支持(=得票数・得票率)
  2. 投票していないが4票全て他の馬で埋まった記者:中間
    (4票の制限が無かったら投票する可能性がある記者)
  3. 投票せず該当馬なしがある記者:不支持
    (4票の制限が無くても投票の見込みがない記者)

エルコンドルパサーを例にしてみていきましょう。

投票者A:エルコンドルパサーブエナビスタヴィクトワールピサ、該当馬なし
この場合、エルコンドルパサーに投票しているので支持に含めます。

投票者B:ブエナビスタヴィクトワールピサスペシャルウィークダイワスカーレット
この場合はエルコンドルパサーに投票していませんが、1人4票の制限が無くなった際に投票する可能性があるため中間に含めます。

投票者C:ブエナビスタスペシャルウィークヴィクトワールピサ、該当馬なし
上記の投票パターンだとエルコンドルパサーへ投票可能なのにも関わらずあえて投票しないため不支持として考えます。

上記3パターンで投票記者を分類わけをして集計します。

 

票割れの判定

このうち、次の条件を全て満たす場合は票割れによる落選と考えて良いでしょう。

  • 1番目の得票率が75%未満 得票率<75%
  • 得票数+中間数の割合が75%以上 (得票数+中間数)÷投票者数≧75%

逆に考えれば3番目の不支持率が25%を超えた場合は票割れが起きていない、もしくは票割れが起きていなくても選定されなかったと言っていいでしょう。
この場合、例え1人が無制限に投票できたとしても選定されません。

 

使用する資料

実際に集計用資料として顕彰馬記者投票結果一覧を使用します。直近年では顕彰馬記者投票名簿など年によって名称が微妙に変わります。

顕彰馬記者投票結果一覧の一例

本来は記者毎にどの馬へ投票したのか一覧形式になった資料ですが、入手した際に個人情報がマスキングされています。ただ、本題の統計では投票馬のパターンさえわかれば問題ないため支障はありません。

 

馬別票割れ発生一覧

馬別にどの年で不支持を受け、票割れの影響を受けているのか見ていきましょう。
対象時期は1人4票制となった2014年以降、対象馬は得票率が20%以上を期間内に3回以上経験のある馬、もしくは落選後に選定された馬に限ります。
2022年は顕彰馬記者投票結果一覧が無いため不明とします。

項目の説明

得票数  実際の投票で得られた票数
可能性数 1人4票の制限が無かった場合に得られる最大票数
不支持数 1人4票の制限が無くても入らなかった票数
判定   ○:票割れあり、×:票割れ無し、-:選定、?:不明

 

ロードカナロア

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2015 119 161 35 60.7% 82.1% 17.9%
2016 125 162 36 63.1% 81.8% 18.2%
2017 152 174 33 73.4% 84.1% 15.9%
2018 156 167 23 82.1% 87.9% 12.1% -

1人4票制となって以降、制度に泣かされた最大の被害馬です。
2015年はオルフェーヴル、2016年はジェンティルドンナと票が食い合い、2018年にようやく顕彰馬の仲間入りをしました。

 

キタサンブラック

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2019 140 167 26 72.5% 86.5% 13.5%
2020 158 174 22 80.6% 88.8% 11.2% -

初年度はまさかの落選、今年のアーモンドアイが選定されなかったときに思い浮かべた方も多いでしょう。2年目には前年の様子を見た記者が投票した影響なのか選定されました。

 

ブエナビスタ

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2014 140 161 34 71.8% 82.6% 17.4%
2015 111 158 38 56.6% 80.6% 19.4%
2016 113 161 37 57.1% 81.3% 18.7%
2017 118 149 58 57.0% 72.0% 28.0% ×
2018 95 137 53 50.0% 72.1% 27.9% ×
2019 94 136 57 48.7% 70.5% 29.5% ×
2020 95 137 59 48.5% 69.9% 30.1% ×
2021 121 152 51 59.6% 74.9% 25.1% ×
2022 91 45.0%

1人4票制となった2014年から3回は票割れの影響を受けています。ただし、3回とも選定馬が現れた年なので判断が難しいところです。2014年の頃なら可能性はあったのかもしれません。2017年以降は不支持が増え、票割りの影響が無くても落選していたでしょう。

 

スペシャルウィーク

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2014 107 141 54 54.9% 72.3% 27.7% ×
2015 90 150 46 45.9% 76.5% 23.5%
2016 86 147 51 43.4% 74.2% 25.8% ×
2017 94 139 68 45.4% 67.1% 32.9% ×
2018 89 130 60 46.8% 68.4% 31.6% ×
2019 88 130 63 45.6% 67.4% 32.6% ×
2020 90 139 57 45.9% 70.9% 29.1% ×

1人4票制となってからは票割りの影響をほとんど受けていません。ブエナビスタスペシャルウィーク親子で票の食い合いがされているのでは?との噂もありましたが、統計上は全く関係ないと言っていいでしょう。

 

ヴィクトワールピサ

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2014 93 147 48 47.7% 75.4% 24.6%
2015 50 143 53 25.5% 73.0% 27.0% ×
2016 54 137 61 27.3% 69.2% 30.8% ×
2017 73 133 74 35.3% 64.3% 35.7% ×
2018 42 120 70 22.1% 63.2% 36.8% ×
2019 46 124 69 23.8% 64.2% 35.8% ×
2020 34 122 74 17.4% 62.2% 37.8% ×
2021 45 112 91 22.2% 55.2% 44.8% ×
2022 30 14.9%

2014年のみ票割れの可能性はありましたが、それ以降は影響はありませんでした。
近年は票数も減ってきていますがそれでも一定の票数は獲得しています。

 

モーリス

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2018 87 145 45 45.8% 76.3% 23.7%
2019 89 142 51 46.1% 73.6% 26.4% ×
2020 67 137 59 34.2% 69.9% 30.1% ×
2021 96 138 65 47.3% 68.0% 32.0% ×
2022 78 38.6%

初回の2018年のみ票割れの可能性はありますが、以降は不支持率が3割前後ある状態が続きます。初年度産駒からピクシーナイトなどを輩出しているため、競走実績+種牡馬実績の合わせ技で今後の巻き返しに期待したいです。

 

キングカメハメハ

得票数 可能性数 不支持数 得票率 可能性率 不支持率 判定
2014 1 127 68 0.5% 65.1% 34.9% ×
2015 17 139 57 8.7% 70.9% 29.1% ×
2016 15 132 66 7.6% 66.7% 33.3% ×
2017 11 117 90 5.3% 56.5% 43.5% ×
2018 14 119 71 7.4% 62.6% 37.4% ×
2019 20 118 75 10.4% 61.1% 38.9% ×
2020 80 134 62 40.8% 68.4% 31.6% ×
2021 141 148 55 69.5% 72.9% 27.1% ×
2022 144 71.3%

2014年は1票だった得票数から昨年、今年と1位まで急上昇。しかし、2021年まで票割れの判定は無いため、支持・不支持がはっきり分かれる傾向にあります。年々不支持率も減少しているため、2022年の数値がどうなるか注目です。

 

まとめ

以上より次の結論になります。

票割れが起きていた馬

一部の期間に票割れが起きていた馬

 

おわりに

統計上では一部の馬に票割れが起きています。ただし、票割れが起こり続ける馬はその後顕彰馬に選定されるケースがほとんどです。例外は今のところブエナビスタのみですが、ジェンティルドンナやアーモンドアイなど同じ牝馬でG1勝利数を上回る馬が出現して年々評価が難しくなる点も考えられます。

逆に言い換えれば、落選する大半の馬は該当馬なしへ投票する記者に原因があると言っても過言ではありません。投票する記者達のおよそ3割がノーと言い続けている以上、1人辺りの投票可能頭数をいくら増やしたところで現状は大して変わらないでしょう。

2022年のアーモンドアイ落選を受けてJRAが投票システムを変更するのか、また変更する場合はどのようになるのか注目していきたいと思います。

 

参考サイト・資料

 

更新履歴

(2022/06/17) 参考サイト・資料を追加しました。